気象学(2)-温位と大気の安定度-

 

兄と妹は、父から「温位が小さい場所に行った方には褒美をやる」と言われました。

兄と妹は温位の意味がわからず、気温みたいなものかな? と解釈していました。

と、いうわけでとりあえず2人は出かけにいきました。

 

【行った場所】

兄:A山 標高3000m 気圧700hPa 気温5℃ 

妹:B山 標高1500m 気圧850hPa 気温15℃

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2人は家に戻ってきて会話をしています。

 

兄「俺の行ったところが気温が低かったやろ? 優勝!w」

妹「ぐぬぬ…… でもおにいちゃんそんなの当たり前だよ…… だって体力が違うもん……勝てっこないよ……」

父「それはどうかな? 温位と気温は違うものなんだな。」

兄・妹「……!!!」

父「温位θ はこんな式で表されるんだ。」

父「がその場所の絶対温度{P_0} が基準の圧力、がその場所の圧力、気体定数cp が比熱容量な。」

{\displaystyle \it θ = T\left(\frac{P_0}{P}\right)^\frac{R}{c_p}} [K] 

 父「だいたいこんな感じや、計算してみい。」

{\displaystyle \it θ = T\left(\frac{1000}{P}\right)^{0.286}} [K] 

兄・妹「ほう。」

兄「俺はつまり、」

{\displaystyle \it θ = (273+5)\left(\frac{1000}{700}\right)^{0.286}} ≒ 308 [K] 

 妹「私はつまり、」

{\displaystyle \it θ = (273+15)\left(\frac{1000}{850}\right)^{0.286}} ≒ 302 [K] 

妹「あれれ〜?? 私の方が温位が小さいよ〜?? 勝った!? 勝ったよね??」

兄「ぐぬぬ。なぜだ、なぜなんだ……」

父「温位ってのは、ある場所の乾燥した空気塊を基準の圧力(通常は1000hPa)へ断熱的に変化させたときの温度なんだ。」

父「つまり、標高がどれだけ高いとしても、その空気を地上に降ろして考えるんだ。」

父「そういった点で、その場所が持つ潜在的な温度というイメージだな。ポテンシャル温度とかいったりもするんや。」

兄「じゃあ俺が3000m登った意味は……?」

父「よく頑張ったな。」

妹「よく頑張ったね、おにいちゃん! そういうとこ好きだよ!」

父「(咳払い)んで、一般的に乾燥した空気は100m下降するとおよそ1℃上昇すると言われている。100m上昇するとおよそ1℃下降する、とも言えるな。いわゆる乾燥断熱減率というやつや。」

父「だから、さっきの計算をしなくてもなんとなく温位的なものは求められるんだ。」

兄「俺は3000mだから0mまで降ろしてくると30℃上昇して35℃」

妹「私は1500mだから0mまで降ろしてくると15℃上昇して30℃」

兄・妹「あっ……!!」

妹「ほんとだ、私の方が気温が低くなってる…… 優勝じゃんwww」 

父「せやな。んだが、実際の世の中が乾燥断熱減率通りになってるわけではないんや。」

妹「乾燥してる空気ばっかりではないってこと?」

父「娘、天才!w」

兄「妹、天才!w」

妹「私、天才!w」

父「実際、一般的に飽和した空気(湿った空気)は100m下降するとおよそ0.5℃上昇すると言われている。100m上昇するとおよそ0.5℃下降する、とも言えるな。いわゆる湿潤断熱減率というやつや。」

父「……じゃが、これらはあくまでも空気塊を断熱的にいろいろいじるだけで、実際の環境とは全然違うんや。」

父「考えてみい、天気予報を聞いてると上空に寒気が入ってきて〜とか言ってるやろ?」

妹「確かに、上空に寒気が入ってきたとしたら地上との気温差は大きくなるよね。もし寒気が入らなかったら地上との気温差はあまりないだろうし……」

父「そうやな、だから、実際の環境の気温の下がり方は気温減率と呼んで断熱減率と区別してるんや。」

妹「はえーなるほど。おにいちゃんわかった??」

兄「あーそういうことね完全に理解した。」

乾燥断熱減率:ある不飽和の空気塊を断熱的に上昇させたときの気温が下がる割合(約1℃/100m)
湿潤断熱減率:ある飽和の空気塊を断熱的に上昇させたときの気温が下がる割合(約0.5℃/100m)
気温減率:実際の環境における気温が下がる割合(条件によってまちまち。平均は0.65℃/100m)

兄「と、こういうことでしょ??」

妹「おー。おにいちゃん頭いいんだね!! 私もなんとなくわかった気がする。」

兄「お前の方が賢いよ。」

妹「いやいやおにいちゃんの方が賢いよ。」

兄「いやいや」

妹「いやいや」

父「(咳払い)さて、ここからが気象学っぽくなるんや。なんでこんなことを話題にしてるか、わかったか?」

妹「大気の状態がわかる……とか??」

父「あああああああああ(娘が天才でぶち上がってしまった)」

妹「だって、例えばさっきも言ったけど上空に寒気が入ってきたら大気の状態が不安定だって天気予報で言ってるもんね。地上と上空の気温差、つまり気温減率が大きければ大気が不安定になるんじゃね?(適当)」

父「あああああああああああああああああ(娘が天才で再度ぶち上がってしまった)」

父「失礼、実際に気象学ではこんな感じで大気の安定度を表現しているんや。」

絶対安定:気温減率 < 湿潤断熱減率(約0.5℃/100m)
条件付不安定:湿潤断熱減率(約0.5℃/100m) < 気温減率 < 乾燥断熱減率(約1℃/100m) 
絶対不安定:乾燥断熱減率(約1℃/100m) < 気温減率 

 

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父「で、不安定だとやばい。空気塊がその場に安定してとどまらずに上昇し続けてしまうんや。」

妹「えーやばそう……」

父「ある空気塊を上昇させたとき、その場の気温減率に追いつかず、空気塊が周りより暖かくなってしまう。暖かい空気は軽いから浮力を得てまた上昇、そしてまた上昇してしまう状態、ということや。」

兄「確かにやばそう……」

父「上昇し続けた結果、積乱雲ができることが多いな。」

父「条件付不安定は、不飽和の空気塊に対しては安定だが、飽和の空気塊に対しては不安定なので"条件付"、絶対不安定は、不飽和だろうが飽和だろうが不安定だから"絶対"という感じやな。」

 

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妹「逆に絶対安定なら積乱雲は出来にくいってことだよね。」

父「おっ、そうだな。」

兄「俺の妹は天才だなあ。」

妹「ちょっとやめてよおにいちゃんっ!」

 

めでたしめでたし。

 

 

妹「……ねえパパ、ご褒美は??」

 

 

 

次回は、水蒸気量を考慮した温位「相当温位」です。