気象学(3)-条件付不安定とエマグラム その1-
前回は温位と大気の安定度について書きました。今回はそれの続きです。
前回にちらっと次回予告をしましたが気が変わったので内容が違います。おわび。
父「この前何やったっけ?」
妹「温位とか断熱減率とか気温減率とか条件付不安定とか?」
父「そうかそうか。天才じゃん。」
兄「勝ったな。」
父「実はその辺をいい感じに表現してくれるグラフがあるにゃ!」
妹「にゃ……?」
父「失礼、グラフがあるんや。」
兄「で、そのグラフとは?」
父「エマグラムにゃ!!」
兄「にゃ……?」
妹「エマグラム……、わたし知ってる……!!」
父「!!!」
妹「横軸に気温、縦軸に気圧、あとは断熱線が書いてあるグラフだよね!!」
父「え、え、なんで知ってるの?」
妹「わたしが天才だからじゃない?」
兄「にゃ……」
妹「ちょっと書いてみるよ」
妹「確かこんな感じだよね。」
父「まあまあ、だいたいあってるかなあ」
父「実際はこの他に等飽和混合比線があったりするし、湿潤断熱線はもうちょい曲線になってるんや。」
妹「なるほど、厳しい。こんな感じ??」
父「せやね、だいたいこんな感じだね。」
妹「不飽和の空気は乾燥断熱線(乾燥断熱減率を図で表したもの)に沿って気温が下がり、飽和の空気は湿潤断熱線(湿潤断熱減率を図で表したもの)に沿って気温が下がるんだよね。」
父「そうだったな。」
兄「ごめん、等飽和混合比線ってなに……??」
父「そもそも混合比を知ってるか?」
兄「えーとえーと」
妹「水蒸気質量の乾燥空気質量に対する割合だよおにいちゃん。もう、しっかりしてよね」
父「そうだな。そして、混合比は水蒸気質量に依存するから飽和状態の混合比、すなわち飽和混合比ってのもあるはずだ。」
兄「ふむぅ」
父「で、等飽和混合比線ってのは、その線の上ならどこも飽和混合比が等しいですよ、ってことになる。」
兄「……zzz」
父「うーん困ってしまった。」
妹「このばかおにぃ!!そんなのもわからないの!?」
兄「……うっ」
父「まあ、露点温度を求める時に使う、と覚えておいてくれ。」
兄「なんだ、それならそうと早く言ってよ。」
父「とりあえず今回は簡略化したエマグラムを使うことにしよう。」
父「さて、前回の話から、エマグラムにはこういう特徴がある。」
兄「あ、こうしてみるとわかりやすいね。」
兄「気温の下がり方が激しいと絶対不安定、下がり方が緩いと絶対安定ってのが図から理解できるね!」
父「さて、エマグラムがわかったところでよくある例を見ていこう。」
父「これはよくある条件付不安定の例じゃ。娘よ、これを説明してくれ。」
妹「やれやれ。まず一番下に注目するよ!」
妹「地上にある空気を断熱的に上空に持ち上げたとすると…‥(実際の気温の下がり方は今は関係ないよ!)」
妹「地上の空気はまず乾燥断熱線に沿ってるよね! だから不飽和なんだ!」
妹「で、乾燥断熱線に沿って気温を下げていくと(高度を上げていくと)いつか飽和するよね?」
妹「その飽和した場所のことを持ち上げ凝結高度というよ! 持ち上げて凝結した高度、そのままだね!」
妹「持ち上げ凝結高度で乾燥断熱線とはお別れだよ! 飽和したらこんどは湿潤断熱線に沿っていくんだ!」
妹「これが断熱的に持ち上げた空気の気温の下がり方なんだ!」
父「うむ。さすが我が娘だ。」
妹「えへへー。次、実際の気温の下がり方を見てみるよ!」
妹「実際の気温の下がり方は赤と青の線で表示しているよ!」
兄「条件付不安定のゾーンを通ってるから条件付不安定ってことだよね?」
妹「うん!」
妹「で、赤線は実際の空気が断熱的に持ち上げた空気よりも暖かい(断熱的に持ち上げた空気が実際の空気よりも冷たい)ゾーン」
妹「青線は実際の空気が断熱的に持ち上げた空気よりも冷たい(断熱的に持ち上げた空気が実際の空気よりも暖かい)ゾーンになってるね!」
兄「赤線は T(断熱) < T(実際)、青線は T(断熱) > T(実際) と。」
兄「つまり、赤線の場合、断熱的に持ち上げた空気は周りよりも冷たいから、重くなってしまってそれ以上上昇しない。青線の場合、断熱的に持ち上げた空気は周りよりも暖かいから、軽くなってしまってさらに上昇してしまう…‥」
妹「そそ。」
兄「青線までいけば勝手に空高くまで連れていってくれる……!!」
兄「俺、青線に行きたい!!」
父「(咳払い)」
妹「いくな!おにいちゃんのバカ!……てかもうねえよ!!」
兄「えっえっ………? なんかまずいこと言ったか俺?」
妹「わ、わたしに言わせんなっ!!(顔を紅潮させながら)」
父「(咳払い)さて!! まあ、便宜上青線とか赤線はこれからも使っていくぞ。」
父「そういうわけで青線に入ると自由に対流ができる(さらに上に行ける)ようになるよな? そんなわけで、青線の入り口を自由対流高度というんだ。これもそのままやな。」
兄「ちょっと待って、ある程度高度が高くなると気温が上昇に転じてない?」
兄「だからかわかんないけどまたまた赤線になっちゃったよ!?」
妹「そんなのもわからないからバカにいちゃんなんだよ。高度が高くなると対流圏界面があるでしょうが。」
兄「たいりゅうけんかいめん??たいめいけん??」
妹「……」
父「対流圏界面というのは対流圏と成層圏の境目だ。成層圏では高度が上昇すると気温も上昇することが知られている。」
父「だから、たとえどれだけ不安定だろうと対流圏界面以降では赤線ゾーンに転じてしまう。すなわちそれ以上上昇することはできない。」
父「この再び赤線に転じてしまう場所を中立高度というな。」
妹「にいちゃん、ここまでをまとめてみたよ。」
兄「おおありがと。でもさ、図に書いてある雲頂とか雲底ってなに?」
妹「実はね、これは積乱雲が発生するときの典型的なエマグラムだったんだ。」
妹「つまり、持ち上げ凝結高度が積乱雲の雲底で中立高度が積乱雲の雲頂になるわけなのよ。」
兄「そうだったのか!!」
兄「え、でもちょっと待って、おかしい。」
妹「??」
兄「だって、最初の赤線ゾーンは勝手に空気が持ち上がらないよ? そもそも空気が自由対流高度にたどり着かないんじゃない??」
妹「ぐう」
兄「あれ、妹ちゃん?? あれあれ??」
父「我が娘が困ってしまったみたいだ。」
父「やれやれ。いいか二人とも? 持ち上げる方法はいろいろあるんだ。」
父「よくある例が風の収束だ。」
妹「はっ、なるほど! こういうことか!!」
妹「風が集まってくるような場所では行き場を無くした空気が上昇気流を起こす。」
妹「いつかは持ち上げ凝結高度に達し飽和、つまり雲が出来始める。」
妹「上昇気流によってさらに上昇し、自由対流高度に到達。」
妹「ここから中立高度までは勝手に空気が持ち上がるから積乱雲が成長。」
妹「こんな感じだよね!」
父「そうそう、そんな感じだ!」
兄「つまり、自由対流高度まで持ち上げてくれるのは……」
兄・妹「上昇気流!!」
兄「天才になった気分だな。」
父「で、この場合、空気の持ち上げは上昇気流に頼ってたよな? つまり、赤線ゾーンは勝手に空気が持ち上がるのを防いでくれているんだ。このゾーンを対流抑制(CIN)という。大きいほど抑制してくれるな。」
妹「逆に青線ゾーンは勝手に空気を持ち上げてくれるんだから、大きい方が積乱雲が発達しそうじゃない??」
父「ああそうだな、青線ゾーンは対流の活発さ、すなわち空気を持ち上げてくれる強さを示す指標になるんだ。このゾーンを対流有効位置エネルギー(CAPE)という。大きいほど対流は活発、ということだな。」
父「まとめるとこうじゃ。」
父「さて、でもまだ一つやり残したことがある。さっき息子がある程度の高度からは気温が上昇してる、といったな。そして、その場所を対流圏界面といったはずだ。」
父「対流圏界面と中立高度が概ね等しいよな。この場合、ある問題が発生するんや。」
妹「下からはどんどん雲が供給されるんだけど、でもでも、上はもうそれ以上行けないってことだよね。」
兄「おらおらまだいけんだろ?(下からやってくる雲の気持ち)」
妹「にいちゃん…やめて…もう無理……(これ以上上に行けなくなった雲の気持ち)」
父「さて、じゃあどうなると思う?」
兄「横に行くとか……?」
父「そうじゃ!! いわゆる発散の形になる。そしてそうなった雲をかなとこ雲、という。」
妹「ほうほう。これまでの流れを再整理するとこんな感じだね。」
父「うむ。このあたりで、エマグラムで見る条件付不安定の一例の説明は一通りおしまいや。」
妹「おつかれー」
父「なんだが、積乱雲ができるきっかけは説明したが、積乱雲が衰える話はしてないんだよな。」
兄「たしかに。どうやったら衰えるんだろ?」
父「基本的には積乱雲によってもたらされる雨が下降流を生み出し、上昇流を消滅させるパターンが多いんや。」
父「だが、雨による下降流と積乱雲を成長させる上昇流の位置がずれていた場合……どうなると思う??」
妹「上昇流を消滅させることができない……!?」
兄「え、そんなことあんの!? やばくないそれ??」
父「ああ、やばい。おそろしい積乱雲になってしまう。だが、お前らもその積乱雲の名前を聞いたことがあるはずだぞ。」
兄「え、俺は知らないと思う。」
父「お前が知らない……」
父「君の知らない……?」
兄「物語。……?」
妹「あっ!!!」
兄「あ、あっ!!!!!」
父「そう、スーパーセル(supercell)だ。別名、巨大積乱雲とか言ったりもする。」
妹「へー、面白くなってきたね!!」
父「うんうん。そして、実は条件付不安定には2種類あるんだ。第1種条件付不安定と第2種条件付不安定。第1種条件付不安定の例は上で取り上げたやつなんだが、じゃあ第2種条件付不安定の例はなんだと思う?」
兄「そんなこと言われても……。」
妹「次回、次回にしよう。私はもう寝たいんだ。」
父「そうだな、次回にしよう。はいおしまい!w」