気象学(1)-水蒸気-

みなさんこんにちは。

突然ですが、あなたがいる空間に水蒸気はどれくらいありますか?

ちなみに、わたしはわかりません。

 

今回は、先人が考え出した水蒸気量の表現手法に関する、なんだかよくわからないお話です。

0. 空気中に含まれた水蒸気量を知りたい話

湿度が分かれば、なんとなく空気中の水蒸気量がわかるような気がしますよね?

というわけで、湿度知りたいですよね? わたしは知りたいです。

湿度の測定手法としては、乾球温度と湿球温度の気温差を用いて求める方法があります(乾湿計と言ったり)。みなさんも小学校の気象観測でやったことがあるかもしれません。(ちなみに気象庁の湿度観測では電気式湿度計というものが使われています。乾湿計じゃないのかよ、と突っ込みたくなるところではありますが)

 

さてさて湿度を測りました。50%でした。ほう? じゃあ結局、水蒸気量いくつなんだよ?? 困ってしまいましたね。まだわからないのです!! あーあおしまいだよ。(終わらないでいただきたいところですが)

 

そもそも空気中の水蒸気量と言われてもどの範囲までかがわかりません。なので、範囲を決めましょう。よくある範囲として単位体積(1m3)が用いられます。

よし、これで空気中の水蒸気量がわかりますね? と、悲しいことにまだわかりません!! そろそろ外野からヤジが飛んできそうですね。なぜか? それは気温によって空気中に入る限界の水蒸気量が変化するからです。先ほど、湿度は50%とわかったんですがそれは限界に対して50%であり、限界量は変化してしまうので水蒸気量はこれだ!!と出せないんです。

 

ここで神の一声が聞こえました。気温は20℃らしいです。さらに、20℃における単位体積の空気中に入る限界の水蒸気量は17.3gらしいです。神様優しいですね。めでたし、これで準備は完了です。

単位体積の空気中に含まれている水蒸気量は

17.3 × 0.50 = 8.65g でした!

 

つまり、いわゆる「湿度」は限界に対する相対的な値ということが分かったかと思います。

なので、いわゆる「湿度」を気象学では「相対湿度」といいます。

それに対し、求めた8.65という絶対的な水蒸気量を「絶対湿度」といいます。

このどちらも水蒸気量を表そうとしたものですね。

 

つまり、空気中の水蒸気量の表現方法はいろいろあるんだなあと感じたかと思います。

 

というわけで、これ以降が本編です。

 

 

1. 水蒸気量の表し方

よくわからん話に入る前に整理だけしておきます。

  単位 説明
水蒸気密度 g/m3 単位体積に含まれる水蒸気の質量(=絶対湿度)
飽和水蒸気密度 g/m3 ある空気に含むことができる最大の水蒸気密度 気温に依存
水蒸気圧 hPa 大気圧(全圧)において水蒸気が占める圧力(分圧)
飽和水蒸気圧 hPa ある空気に含むことができる最大の水蒸気圧 気温に依存
相対湿度 % 水蒸気密度の飽和水蒸気密度に対する割合
絶対湿度 g/m3 単位体積に含まれる水蒸気の質量(=水蒸気密度)
混合比 g/kg  (g/g) 水蒸気質量の乾燥空気質量に対する割合
比湿 g/kg  (g/g) 水蒸気質量の湿潤空気質量に対する割合
露点温度 気圧一定のもとで温度を下げたとき飽和に達する温度
湿球温度 水の蒸発によって温度を下げたとき飽和に達する温度


 以下においては紛らわしい2つのペアごとにこれらを詳しく紹介していきます。

 

1.1 飽和水蒸気密度と飽和水蒸気圧

ある空気には含むことができる最大の水蒸気量がある、という話をしたかと思います。その水蒸気量を正しくは飽和水蒸気量 [g/m3] といいます。

さて、気象学においては飽和水蒸気量を飽和水蒸気密度 [g/m3] と呼ぶことがあります。そこで、これからは飽和水蒸気量を飽和水蒸気密度と呼んでいきます。が、まあ飽和水蒸気量だと思ってくれれば大丈夫です。

ただし、気象学では飽和水蒸気密度の代わりに飽和水蒸気圧 [hPa] もよく使われます。まああまり深いことは考えず、飽和水蒸気密度の兄弟とでも思っておきましょう。

飽和水蒸気密度と飽和水蒸気圧はともに気温によって決まり、気温が高いほど飽和水蒸気密度や飽和水蒸気圧は大きくなります(下図)。

 

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車の定員で考えるとこんな感じです(値は適当です)。

気温(℃) -30 -20 -10 0 10 20 30
車の定員(人) 2 3 4 5 6 7 8

 

つまり、気温が高くなるほどハコが大きくなるというイメージです。

 

 

1.2 相対湿度と絶対湿度

普段、「湿度は〜%」と言っていますが、これは相対湿度 [%] のことです。

相対湿度とは水蒸気密度の飽和水蒸気密度に対する割合で、次のように求めます。ちなみに、水蒸気圧で考えることもできます。

相対湿度[%] = (水蒸気密度 [g/m3] / 飽和水蒸気密度 [g/m3]) × 100
  = (水蒸気圧[hPa] / 飽和水蒸気圧[hPa]) × 100

 

それに対し、絶対湿度 [g/m3] は単位体積(1m3)に含まれる水蒸気の質量で、次のように求めます。

絶対湿度[g/m3] = 水蒸気質量 [g] / 湿潤空気の体積 [m3]

あれ、絶対湿度は水蒸気密度じゃないの?と思った方、正解です。

この2つは全く同じものです(名前が違うの紛らわしいですね)

 

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例)上図のような空気塊を考えるとき、各値は以下の通り。(20℃の飽和水蒸気密度は17.3g/m3

(1)相対湿度 = (8 / 17.3) × 100 ≒ 46%

(2)絶対湿度 = 8 / 1 = 8g/m3 (てか水蒸気密度そのままだし)

 

 

1.3 混合比と比湿

さて、絶対湿度と似た概念に混合比や比湿というものがあります。

混合比は水蒸気質量の乾燥空気質量に対する割合で、次のように求めます。 

混合比[g/kg] = 水蒸気質量[g] / 湿潤空気中の乾燥空気質量[kg]

  

比湿は水蒸気質量の湿潤空気質量に対する割合で、次のように求めます。  

比湿[g/kg] = 水蒸気質量[g] / 湿潤空気質量[kg]

 

難しいことはさておき、水蒸気質量を分母に含むなら「比湿」、含まないなら「混合比」。それだけです。 

 

さて、混合比wと比湿sの関係性を調べてみましょう。

水蒸気質量を{m_v} 、乾燥空気質量を{m_d} とすると、

{\displaystyle w = \frac{m_v}{m_d}}    {\displaystyle s = \frac{m_v}{m_d+m_v}}

 となるので、

{\displaystyle w = \frac{s}{1-s}}   {\displaystyle s = \frac{w}{1+w}}

 が導出されます。(変換するためには [g/kg] を [g/g] にします)

 

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例)上図のような空気塊を考えるとき、各値は以下の通り。

(1)混合比 = 18 / (6 - 0.018) ≒ 3.01g/kg   

  ※ 湿潤空気6kgから水蒸気質量18gを引くことで乾燥空気質量を求めます。

(2)比湿 = 18 / 6 = 3g/kg

 

あれ、ほぼ同じ…?と感じるかと思いますが、比湿と混合比はほとんど差がないことが知られています。なので問題ありません。

 

混合比と比湿を整理すると、下図のような感じになります。

 

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一番下の補足欄に水蒸気圧から混合比と比湿を求める方法を紹介しています。たまに出てきたりします。

 

 

1.4 露点温度と湿球温度

露点温度 {T_d}気圧一定のもとで温度を下げたとき飽和に達する温度です。 

湿球温度 {T_w}水の蒸発によって温度を下げたとき飽和に達する温度です。

  →水が蒸発することで湿度がどんどん上がっていってしまいます。

そのため、気温を下げていったとき湿球温度の方が早く飽和に達してしまいます

 T乾球温度(いわゆる気温)として、これを式で表すと、

{T_d}  ≦  {T_w}  ≦  {T} 

となります。等式が成立するのはすでに飽和している(=相対湿度100%)ときですね。

 

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と、これらが空気中の水蒸気量の指標として実際に使われています。

多すぎてわけがわからないよ、という感じがします。ただ、実際ほとんどがこの後の話にも登場するためこれらは区別して覚えないといけないのです。きびしい……。

 

 

 

気象学の話をしたいのにあまり気象学っぽくないですね。もうちょいスケールの大きい話をしたいですね。え? 上空の気温が気になります? 確かにわたしも気になります!

というわけで、次回は温位(Potential temperature)について扱っていきます。その位置が持っているポテンシャル温度?みたいなイメージです。

 

 

 

(願望)

ここが違う!や、ここが意味不明!などがありましたらお知らせください。

 

 

(補足) 

混合比(水蒸気圧で考える場合) 混合比をw、 水蒸気圧をe、全圧をPとして

{\displaystyle w = 0.622\left(\frac{e}{P-e}\right) ≒ 0.622\frac{e}{p}} [g/g] 

比湿(水蒸気圧で考える場合) 比湿をs、 水蒸気圧をe、全圧をPとして

{\displaystyle s = 0.622\left(\frac{e}{P-0.378e}\right)} [g/g]